フチゾリネッタイコシビロダンゴムシの謎マウンティング行動

昨年の11月に採集したフチゾリネッタイコシビロダンゴムシ(…という名で愛好家間では通っているようですが、これを標準和名として扱っている学術的な文献は今のところまだ知りません)。
現在飼育中ですが気温の上昇とともに盛んに子を産んでくれて容器内が賑やかになってきました。

▲フチゾリと呼ばれるだけあって体の辺縁が反り返っている(樹皮に密着する/間隙に侵入するためか)。そのため、丸まるとそろばん玉のようなシルエットになる。

…ところで、このダンゴムシについて飼育開始当初よりずっと気になっている行動があるのです。それがこれ。

▲こんなん。

小型の個体がより大型の個体の体の前半部(頭側)へ覆いかぶさる行動。不思議なことに必ず前半分にのしかかっている。
一時期はシェルターを暴くたびに一組はこの行動をとっているのが当たり前でした。

…共食い?と思うところですが、それにしては乗られている個体が無抵抗すぎる。
個体数が減ることもない。成虫は10匹そこらしかいないので食い殺されていたならすぐに気づくはず。

また別の個体達が…

何をしているのか確かめるためにのしかかっている個体を引き剥がしてみると…。

…乗られていた個体の前半部がしょぼくれたように萎びている!!

脚も前半の4対ほどが見当たらない!
ってことはやっぱり共食いだったの!?
とりあえずこの被害者(?)は個室に隔離して様子を見ることに。

するとおよそ24時間後にはシルエットも脚も健康な状態に戻っていました。

ということは体型がいびつになっていたのは単純に脱皮の最中だったから、ということらしいですね。
たしかに脱皮中の個体に対してよく行われる傾向は感じていました。

では好意的に解釈するなら、覆いかぶさっていた個体は剥離してきた外皮を食うことで仲間の脱皮を手伝っていた…ということになるんでしょうか。
たしかに本種は野外において非常に狭い範囲、同じ隙間に多数の個体が密集して生活しています。ならばこういう協力体制があっても不思議ではないのかも。

…と思いきや。

その後も注意深く観察していると、頭部周辺の外骨格がやや変形した個体がたまに出現することを確認。
たとえば↑の写真だと一番大きな個体がやたら前すぼみな体型になっています。

正面から観察すると若干ですが左右非対称に歪んでいます。この個体は撮影の2日前にやはり他の個体に乗られていました。
おそらくアレが原因でしょう。となるとまったくダメージがないというわけではないらしい。
本種は他のダンゴムシやワラジムシに比べて脱皮中〜直後の外骨格がやたら軟弱な印象を受けます。そこを強く圧迫されるとこうなるのかも。

うーん、大きな変形や死亡事故につながりかねないので飼育する身としてはできるだけやめてほしい。ならば…。

脱皮殻を食べたがるということはカルシウム不足(炭酸カルシウム粉末とカメの餌は与えていたんだけども)かと考え、砂浜で拾ってきたコブシメの甲を砕いて容器内に複数配置。常時カルシウム補給ができるように。
すると、それ以来この謎マウンティング行動を目にする機会は減ったように感じます。

ダンゴムシのような小型の動物は飼育することで得られる発見も多いですね。
問題はこのところ虫類の飼育ケージが僕の生活スペースを圧迫し始めたことですが。

↓※そしてこんなフィギュアまであるとは…

たしかにかわいいからね。バンダイの目の付け所は間違ってないと思う。

hirasaka :

View Comments (2)

  • こういうのは本当に良く見てるかたじゃないと気付けないと思うのでとても興味深く拝見しました。エビやカニなども脱皮殻を食べますが、あれのもっと直接的な行動に見えました。手慣れてそうなので自然界でもやっているかもしれませんね。

    こういう観察での気付きからカルシウム補給にて解決であれば、一連の流れはパズルを合わせるように美しく飼育の醍醐味ですね。共に寝食を分かち合うからこその発見、生活スペースを投げ出す価値があるゴキ。

    • ぽむさん
      ありがとうございます。
      たしかに自身や同類の脱皮殼を食べる行為は節足動物全般に広く見られますが、脱皮の最中にがっつくのは相当カルシウムに飢えていたのかなぁと。

      生物を知るには野外での観察が一番!という声も多いですが、飼育下での観察も野外での不足を補えるので非常に有意義ですよね。
      どちらも必須です。

      そして文末の語尾が不穏ゴキね…。