『釣り餌に酒をまぜる』は本当に有効か

釣り餌、特に撒き餌や練り餌にはターゲットや地域によってさまざまな混ぜ物がブレンドされる。
視覚的なアピール効果を高める貝殻片や嗅覚に訴えるイワシ油やイカ油、時にはパン粉、ニンニク、卵黄といった食品も混ぜこまれる。

「このエサにはコレとコレを混ぜる!誰にも言うなよ?」的なこだわりは世界中の釣り人に見られる。逆に職業漁師ほど低コストでシンプルに仕上げる傾向があるような。

こだわる釣り人ほど、こうした餌を作るだけで小銭が飛んでいくようだ。そこに「そのお金でそこそこの魚買えるよね?」という茶々を入れてはいけない。絶対いやな顔をされる。
釣りとはその辺の『(傍から見ると)いらんこだわり』までひっくるめての道楽。そこを茶化すは野暮なのだ。

で、その混ぜ物について釣り人たちから聞いた話で、妙に引っかかるものがあった。
「餌に酒を混ぜ込むとよく釣れる」というのだ。酒かすではなく、液体の酒。アルコール飲料。
同様の話は沖縄、九州、関東と各地で聞いた。いずれもご年配の方から。
しかし…酒?魚が酒飲むか?
釣り人が行うこの手の『創意工夫』にはおまじないやジンクス程度の意味合いしか持たないものも多い。怪しい。

たしかに哺乳類や昆虫を対象としたベイトトラップでは餌に焼酎などの酒類を添加することがあるし、実際に効果てきめんである。
彼らはアルコール発酵した落下果実や樹液などを食うため、それも納得がいく。だが水中に暮らす魚類にそうした機会は極めて少ないはずだ。

▲カブトムシやクワガタを集めるバナナトラップはバナナに焼酎をぶっかけて発酵させて作る

でもアルコール発酵によって作られるうまみ成分や糖は多くの魚にとって魅力的ではあるだろうし…うーん…?
実験してみようか。

『混ぜるだけ』はNGっぽい

今を去ること2か月ほど。11月にイベントと講演で訪れた高知県で最初の機会を得た。
イベントのスポンサーであるCOCALERO(コカレロ)が実験用にコカの葉(!)を原料としたリキュールを提供してくれたのだ。
度数は割と高めだが、味はけっこう甘みが強い。
強い酒が得意でない僕でも飲みやすい。
詳しくは後述するがこの味付けはこの実験にかなり都合がいい。

▲ライブハウスでのイベント前に出演者一同で実験を兼ねた釣りに。しかし道中立ち寄った磯料理の店では魚の前にこちらに酒を入れてしまった。高知の貝の美味さにびっくり。

『餌に酒を混ぜる』とだけ聞くと釣り場で瓶を開封して餌の上にぶっかけ、混ぜ合わせてすぐに使用するという状況を思い浮かべるだろう。
しかし、この段取りでは問題がある。アルコール(エタノール)が飛ばないことだ。体内にアルコールが流れ込むと魚はダメージを受ける。
北海道の『チップカムイ』ことオオカミウオの事例しかり、魚に神酒を飲ませて放流するという逸話は各地に見られるがもし本当に実行した場合、人間目線で少なめの酒量であってもたいていその魚は死ぬ(ウツボやウミヘビなどの強靭な魚種は耐え抜くかもしれないが)。

そんな『下戸』な生物である魚類が、アルコールを含んだ餌をわざわざ好きこのんで食いに行くだろうか?忌避するならわかるが。
まずそれを確認する。晩秋の高知の、澄み切った海で。

▲まずは海へ!

▲味釣りなどで使われるアミエビの撒き餌(アミコマセ)にコカレロリキュールを適量混ぜる

▲リキュールを混ぜたもの、混ぜないものを用意して浅瀬へ投入し、魚の反応を目視で確認する。

結果はすぐに出た。
酒を混ぜなかった撒き餌にはスズメダイと思しき小魚たちが寄り集まってついばんでいるが、酒を混ぜたエサにはほとんど寄ってこない。むしろ露骨に避けている感じである。
エタノールでなく水中に拡散する香りや味を嫌っている可能性もあるが、ともかくこの「混ぜて即撒く」作戦では魚の食欲に訴求しないどころか逆効果なケースがあることが示唆された。

結局、この日に魚を釣れたのは酒不使用の餌を使っていたDJ食品まつりさんだけ。残りのお酒はどうぞ祝杯に!

発酵、甘味、香りの効果は?

やっぱり混ぜただけ、アルコールが残ったまんまじゃあんまり意味がなさそうだ。
なら餌に酒を混ぜて放置し、発酵を促すのはどうだろう。あるいはアルコールを飛べば酒自体に含まれる糖分の味や香料の匂いが魚を惹きつけるかもしれない。
実際に東南アジアにはめちゃくちゃ酒臭い、というかキツい発酵臭を放つ練り餌があり、淡水での鯉釣りやナマズ釣りに用いられている。

▲東南アジアの練り餌には酒かすを濃縮したような発酵臭を放つものがある。

そして東南アジアといえば、タイのメコンオオナマズ釣り堀『ブンサムランフィッシングパーク』で見かけた液体の混ぜ物も気になる。

▲シロップのような甘ったるい香りにシンナーに似た臭気が混じる液体。水で薄めて米ぬかベースの練り餌に混ぜると釣果が目に見えて伸びる…とはタイ人の談。…奇しくも今回使ったコカレロリキュールに色合いが似ているが。

というわけで高知から沖縄へ戻ったところで追加実験開始。
『パン粉+つなぎに少量の小麦粉』というできるかぎりシンプルな練り餌をベースとして用意。2つのバケツに分割し、片方にはリキュールを混ぜて密封、ベランダに放置して発酵させもう片方はそのまま手を加えず使用する。アルコールもおおよそ揮発するだろう。

▲二種類の餌(左:酒入り 右:酒抜き)。見た目は大差ないが、匂いと味は大違い。酒を練りこんだものは甘みが強く、このまま油で揚げたら案外イケそう。

植物質ベースの餌なので、狙いは雑食性の強いチヌとティラピア。
彼らが多く生息する河川下流域で竿を出す。仕掛けは餌の団子に釣り針を仕込むいわゆるバクダン仕掛け。
仕掛けを投入してすぐに魚からの反応が。選ばれた餌は…『酒アリ』の方だ!

酒まぜの餌に食いついたティラピア!しかし…

おお、酒の効果か!本当に効き目があったのか!
…と感心するのもつかの間。ふともう一本の竿を見ると、糸がくいくい引っ張られている。
………酒抜きの餌にも食いついちゃってるよ。

酒なしのパン粉&小麦粉オンリーの餌にもバンバン食いつく…。こりゃターゲットの選択をミスったとしか言えないな。

酒の有無にかかわらず入れ食いになるティラピア。この魚はこの実験の対象としては貪食過ぎた。生息密度が高すぎた。
どんな餌か、とかもう関係ない。食えそうな物体なら手当たり次第である。
「どちらかといえば」レベルの嗜好差はあるのかもしれないが飢えたオオカミの群れにウサギと子豚を投げ込んだらどちらが……、といった話だろう。どっちも一瞬で食われるに決まってる。

同じ雑食性であっても、もうちょっとだけ分別のある魚を相手にしなければならないようだ。


コイが選んだのは… どっちだ!

過ちに気づき、竿を出す河川を変える。
この川にもティラピアはいるが、その数は先ほどのポイントに比べるとずっと少ない。その代わりにあの大型魚が多数生息している。
10mほど離れた場所に二種類の餌を打ち込み、竿先に鈴をつける。先に音色を響かせたのは酒をまぜた餌だった。
しかし針に魚はかからない。餌だけ取られた。
緑色の練り餌をつけなおし再度投入。すぐにまた鈴が鳴る。だが掛らない。
一方で酒抜きの餌を投じた竿はうんともすんとも言わない。
これは…効果ありか?
そうほくそ笑んだ瞬間に背後でけたたましく鈴が鳴った。

▲パン粉+小麦粉+リキュール=コイ!

釣れた!立派なコイだった。
コイも悪食で有名ではあるが、ティラピアに比べればいくらか分別のある食事をするものだ。
今回の実験をするにあたって理想的な魚だっただろう。

その後もアタリは明らかに酒を混ぜた餌に偏って続いた。
コイは甘い餌を好むといわれ、芋羊羹を餌に釣ることもある。東南アジアでもコイ科の雑食魚を狙う場合は餌にパンダンクリームのような甘味料を混ぜ込む。
なんとなくだが、今回使用したコカレロリキュールに含まれる糖分の甘みがこの結果を導いたように思う。

……ぶっちゃけ、『酒の』効果があった!!と言うにはまだ実験が足りていない。
アルコールを含まないシロップと香料を混ぜても同様あるいはこれ以上の効果があったかもしれない。

しかし、その後もリキュール練り餌にアタリが続いたのは事実(釣れなかったけど)。
「使い方を工夫すれば、使う酒種と狙う魚種によってはいい結果を生むこともあるっぽい」
とまでは言えるだろう。

「酒は魚釣りに効果的か」という疑問に明快な答えを出すためにも今後は日本酒、ビール、焼酎などいろいろな酒を用いて同様の実験を重ねていかなければならない。

……今回は提供があったからよかったけど、今後自腹でやるとなると懐が痛いね。
コカレロさん、あざっす!

2 件のコメント

  • 面白い実験ですね。アルコールが淡水魚に限定して効果的という可能性はありそうと思いました。川なら完熟して落ちて発酵した果実は流れてくるし、季節によってはそれもかなりの数になるはずで、魚は貴重な恵みとしてそれを食べるでしょう。逆に海水魚はそういう機会はほとんど無いでしょうね。

  • 宮沢賢治の『やまなし』を彷彿とさせるテーマですね。
    魚よりもカニとかエビの方が効果ありそう。面白い。

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