昆虫食の普及と啓蒙 その前に立ちはだかる『絵力』の壁

Yahoo! JAPAN主催のイベント、Future Questionsにパネリストの一人として登壇してきました。なんと初回のテーマがいきなり昆虫食。
他のパネリストおよびモデレーターの皆様、いずれも素晴らしい経験をお持ちの方で主催陣の人選に感服いたしました。
さすがにこれだけの面子が集まると大いに盛り上がり、とても楽しいひと時となりました。

しかし、その盛り上がりと楽しさこそが昆虫食の今後に陰を落とすものなのだと僕は考えています。
事実、このイベントも楽しい、面白い、可笑しいという笑いに終始包まれていましたが肝心の『未来の食と昆虫食』という議題が終盤まで放置されてしまった。そのことはあの場にいた誰もが認めるところでしょう。
いつまでも本題に、『真面目な話』に入れない。

なぜこんなことが起きるのか。それは一般の方にとって昆虫食とそれにまつわる一連の出来事があまりに『絵力』を持ちすぎているためでしょう。
現代の日本において「虫を食べる」という行為はインパクトが強すぎる。バラエティ番組的な面白さに富みすぎているということです。
流行りの言葉で「SNS映えしてしまう」と言い換えてもいいかもしれません。

▲試食の場にて。このように昆虫の姿をしっかり残した料理は非常に『映え』てしまう。将来的に『実用』されるであろう昆虫料理はここまでフォトジェニックなものになるとは考えにくいですが、がっつり加工して虫感がまったく無いメニューばかり並べるのはこうした啓蒙・普及の場ではある意味『逃げ』になってしまう。難しいところだ。



▲その点、愛さんが用意してくださったメニューは完全に昆虫の原型を消した実践的なものを中心にお約束の姿揚げまでグラデーションがとられていた。ただのパフォーマンスで終わらせないためにはこういう気配りは大切だと思う。(写真上:昆虫おにぎり 写真下:クロスズメバチのシェイク)タイワンタガメのおにぎりが美味しかったです。

今回のイベントは試食時間も含め90分という限られた時間しか取られていませんでした。この手のイベントでは決して短いものではないはずですが、スライドが面白すぎたために本題を談議するには時間がまったく足りなかった。

だって、無理じゃん…。

たとえば昆虫食研究家の愛さん(※この方、素晴らしい逸材です)が見せてくださったスライド、「セブンイレブンのコーヒーカップがスズメバチをストックしておくのにちょうどいい」とか、「ヤシオオオサゾウムシをキロ単位で買って宿で干す」とか。そんなスライドを目の当たりにしたら誰だってツッこまざるをえないでしょ。
もちろん、あれが決してウケ狙いのために用意したスライドではないと僕にはわかります。昆虫食文化や食用昆虫の確保の方法を退屈させずに参加者へ説明するために必要な、真面目な画です。

でもねこれは僕自身の言い訳でもあるのだけれど、一般向けのイベントでそれを映しながらお堅い話を優先するのはかなり困難なわけです。
デカいゴキブリがカメラ目線キメてる写真が大映しになってる前で「なるほど愛さんはご自宅でヒッシングローチを飼育、繁殖なさっているんですね。食糧として昆虫を利用する上でのメリットは何と言っても養殖の容易さにありますからね。では次のスライド。」なんて淡々と直で繋げるわけがないじゃない。
よしんばそんな進行を押し通したとして、客席がそれどころじゃないでしょ。「何…今の……」ってざわつくに決まってます。

要は昆虫食がテーマだと真面目な話をしているのにそれが実質『ボケ倒し』になってしまう。さらに聞き手やメディアがそれにツッコミをいれ、イジってしまうから話が脱線する。でも笑いは起きるからそれで良しとされてしまう。これが厄介。
そろそろその辺をうまくバランスをとった、面白いんだけど実用的な未来の昆虫食への関心を引くイベントなり動画メディアなりが必要なのでは。
前者ならサイエンスカフェがしっくりくるかな。後者はTVならNHK的なやつか、あるいはワールドビジネスサテライト的なやつか。今は動画サイトもあるしね。

…素人がこんなことを言うのは恐縮ですが、プロアマ問わず研究者のみなさんの尽力によって「来たる食糧危機の打開策に昆虫食という選択肢がある」ということはかなり広く知られるところとなりました。
どんなメディアでもいいから手当たり次第に出張って「どうにかさわりだけでも周知する」という最初期段階はもうほぼほぼ達成しているように思えます(語弊があるかもしれませんが)。

これからは周知から理解へ。昆虫食をより現実的な食のカタチとして受け入れてもらう必要があること、そして早急な研究と準備が求められていることを認知させるステップに移行する時なのではと感じるのです。
少なくとももうバラエティ番組で「ゲテモノ食い」としてイロモノ扱いを甘んじて受ける必要はないはずだと。
芸能人がこれ見よがしに口から虫をはみ出させてピーピーわめいているようでは昆虫食というジャンルまでは周知できても「あ、宴会の余興的なアレね」としか思われないでしょう。有用性も重要性も伝わらない。

そうなると、もう啓蒙する側がメディア露出に際してのスキルを高めていくことが求められます。
「んなことわかってんだよ!!」と諸先生方に怒られそうですが、結局そういう話ですよね。
地上波だと制約多そうだからAbemaTVとかAmazonプライムあたりで番組持つとかもアリでしょう。

かつて昆虫食という文化自体は世界各地に広く分布していました。その多くのケースは海産物に頼れない内陸地域でタンパク質を確保する知恵として発達したもの。
そう考えると「食べるものが無くなったら虫を食う」というのは決して突飛な案ではないと納得できるはず。昔あった、あるいは現在も各地に残存している文化を受け入れればいいだけです。下地は意外と整っている。

何も「年内に一般に昆虫食の習慣を定着させろよ!」と言っているわけではないですからね。「いつか」のために今から備えていこうという話ですから、まずはそういう食事に抵抗を持たないように少しずつ洗脳…じゃなくて啓蒙していきましょうと。
そのために「どう伝えるか」を研究者の皆さんは首をひねりながら考えることになるでしょう。もうなってるか。

僕も門外漢ではありますが、そうした活動に少しでも役に立てればと今回の登壇を経てあらためて考えるようになりました。
いちライターとして、真面目で楽しく昆虫食を紹介する記事を作れればと。
…ただ、僕が昆虫を料理すると絶対に笑いをとる方向に偏ってしまうので、そこは専門家の方への取材が必要でしょうね…。
失礼の無いよう今から勉強しておかなくては。

※追記:そういえばモデレーターを努めてくださった株式会社ムスカのCEOである流郷氏がいいことをおっしゃってました。
「私は昆虫食が確立されたからといって、子供たちに食べ物がないからと虫ばかりを食べさせるような未来は迎えたくない。そうしないために豊かな食生活を持続できるよう努める」と。
いいこと言いますね。昆虫食はあくまで『未来の食の選択肢の一つ』であるべきで、そもそも食糧危機を回避するための努力こそが重要なんですよね。

というわけでみなさんもFuture Questionsのサイトを見て「20XX年、私たちは何を食べているのか」という課題について考えてみてはいかがでしょうか

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です